01-10 せかい、へーわ。

「あら、やはり純白姫(プリンセスホワイト)側につくパステルガァル!は、そうやって反抗するのね」

 ダークネスグリーンは再び、冷笑した。

「たーいむ! ちえり、ママに聞いてくんね! 大丈夫、すぐ戻るから!」

 そういうと、パステルガァル!のカッコのままで、ちえりはてっててーと、公園を抜け、あらぬ方向へ全力疾走して行った。…取り残される、ふたり。

「「…は!?」」

 ダークネスグリーンとぱれっとはその場で呆然となった。

「ママ!」

 ダンダンダン!

 そういってちえりは自分が住む黄色いアパートの階段を、一気に駆け上がった。

 ちょうどその頃、飼っている亀の水槽の水を交換したばかりの母親が、一息ついてテレビを見ようとしているところであった。

 バン、と娘が玄関のドアを勢い良く開け放った。

「おかえ…り…って、ちょっと、アンタ、なんだその格好」

 新しい、新しいぞ、娘。帰宅かと思いきや、コスプレか? 目の前のわが愚娘、ちえりは、ピンクを基調としたフリフリなコスチュームをプレイしておられる。母親は、せんべいの封を切るのも忘れ、思わず立ち上がった。

「わかった。つぐみとまたアホなゴッコ遊びしてるんだろ?」

「うぅん、違うの。世界が、まっくろになっちゃうから、ちえり、戦うことにした、いい?」

「あ? 正義の味方ってこと? 世界平和ゴッコ?」

「うん、せかい、へーわ。いい? やっても?」

 あまりの唐突で、突飛な発言に、開いた口が塞ぎきらない。

 今度は何の影響だか。

「……宿題、ちゃんと自分からやる?」

「う、うん」

 お、珍しく、娘があまり躊躇(ちゅうちょ)しないで首を縦に振った。

 結構固い意志なのか。

「夜は早く寝る?」

「ね、寝る!」

 これは…こいつマジか?

「夏は夕方6時までに帰ってくる?」

「うんうん! だからいい?」

 ちえりの母親は、最後にダメ押しで一喝入れてみた。

「あんた、ホントだろうね? 約束守れない人間は、世界平和できないよ!」

「やくそくまもる!」

「約束やぶったら、ママが敵をぶったおして、話しを台無しにしてやるからな!」

「わかた!」

 わかたのか、パステルガァル!

「そう、なら、世界平和してよし!」

 そういうと、親指を立てて、ちえりに微笑んだ。

「ママ、ほんと? ありがと!」

 バタン、と今度は扉を勢い良く閉めたかと思うと、階段を駆け降りて行った。

「忙しない子ねーホント」

 そう言って母親はせんべいの封を開けるとボリボリと食べはじめた。

 (はなぶさ)ちえりにしてみれば、色彩層(パステルワールド)のシステムも、事情も、ましてや状況も、よくわかっていないであろう。

 しかし彼女は、ただ一点、「この世界が真っ黒になるのは嫌だ」この一点のみで戦う決意をしたようだった。

 それは、彼女の持つ動物的本能なのか、人間としての理性なのか、人を思うがゆえの感情なのか、あるいはそのすべてを持っての意思なのか知る(よし)もないが、とにかくこの時の彼女の決意は、パステルガァル!の、すべてのスタートであった。

 

 そう、この物語は、世界を暗黒にさせまいとする、少女たちの物語である。

 ちなみに彼女たちを「パステルガァル!」と言った。最後の「!」(エクスクラメーション)マークは、彼女たちの期待値(のびしろ)を意味すると、彼らは説明する。

 

(第01話 おわり)