「だ、ダークネスグリーン…!」
ぱれっとは、悲鳴に近い叫び声をあげる。
ダークネスグリーンと呼ばれた緑色の不思議な女子は、宙空からフワリと着地した。頭からはウサギの耳のような、緑色の葉っぱのようなものが2つ垂れている。
そう、彼女はぱれっとに告げた。背筋がゾッとするような微笑みを持って。
案の定、ぱれっとは凍りついている。つまり、凍りつくほどの事態と言うことなのだろうか。
「でも、ぱれっと。残念だけど、あなたたち使者が奪った色彩元珠(パステルオーブ)は回収させてもらうわ」
「う、奪った? 何を言うのれす。ダークネスグリーン、あなたも洗脳されているのれすよ!」
「洗脳? これは私の意志よ。暗黒王(ダークネスキング)様への忠誠心よ」
「忠誠心…それ自体が、洗脳なのれす!」
「…だまりなさい」
ダークネスグリーンの指先からひとつ、緑色の小さな球が飛び、バシっとぱれっとの額にあたった。
「いだ、うう…」
その攻撃はかなり手加減したものだったのだろう、それでもぱれっとに尻餅を着かせるには十分だった。
「ねぇ! おねーさん!」
と、その張り詰めた空気を台無しにするような、素っ頓狂(すっとんきょう)な声でちえりはダークネスグリーンに話しかける。
「おねーさん、ちえり変身したんだよ! スゴイ? あれ? おねーさんも変身したの? 仲間?」
「え? な…仲間じゃないわよ」
「さっきね、黒いオッサン倒したの。棒でえいーって。スゴイ?」
「え…ぇぇええ? うん…?」
ちえりの一生懸命なジェスチャーに押され気味になり、ダークネスグリーンは、思わず頷いてしまった。
「ねー! やっぱ、すごいんだ! そいや! そいや!」
ふいに、ぱれっとの足を鷲掴(わしづか)みにしたかと思うと、そのまま「ぶぉん」と宙空へ放り、そいやそいや、と胴上げをする。
「ほら、おねーさんも!」
「え…?? そいや? …そいや!」
ダークネスグリーンは、完全にちえりのペースにはめられ、一緒に胴上げをしてしまった。
「って、ちが――う!」
完全な、はずかしくらいの、ノリツッコミであった。
もしかしたら英(はなぶさ)ちえりは、特殊技能として相手にノリツッコミをさせ、精神的に疲弊させる能力があるのかも知れない。
ところで、と、ダークネスグリーンは思った。目の前の少女は、何なのか。
さくら色のパステルガァル!であることはわかった。しかし、こうも簡単にペースを乱されるとは。ダークネスグリーンは、気を取り直すように、両手を広げオーバーアクションでちえりに訴えた。
「に、人間のパステルガァル!に教えてあげるわ! この人間の層(レイヤー)に色が存在するのは、色彩層(レイヤー)つまりパステルワールドのおかげなのよ。そして色彩層(パステルワールド)は、白を統べる純白姫(プリンセスホワイト)と、黒を統べる暗黒王(ダークネスキング)様の均衡で成り立っているのよ」
「へえ」
ちえりはぽかんとした口で返事をした。理解して頷(うなず)いたと言うより、ただの相槌(あいづち)に近い。
「我らが暗黒王(ダークネスキング)様は、世界の色をすべて黒に染め上げる『侵(しん)色(しょく)』を開始されたのよ。パステルワールドに存在する色がすべて黒になるわ。つまり徐々にこの人間の層(レイヤー)からも色が消え、暗黒の世界になって行くわ! フフフ!」
「そうなのれす! ひとつの色には色の源である、色彩元珠(パステルオーブ)が存在するのれす。ちえりさんに渡したものはさくら色の色彩元珠(パステルオーブ)。つまり、それがさくら色の源なんれす」
「そうよ、そこからさくら色が流れ出ているのよ。そして、私は緑色。緑色の色彩元珠(パステルオーブ)を守護する『暗黒(ダークネス)元珠精(ガーディアン)』」
ぱれっとは警戒を解かずに距離を置きつつ、興奮ぎみにダークネスグリーンを指差した。
「暗黒王(ダークネスキング)は、色彩元珠精(パステルガーディアン)たちを洗脳したのれす! 色彩元珠精(パステルガーディアン)は色彩元珠(パステルオーブ)を守る、色の守護精霊でつ。色を守るはずの色彩元珠精(パステルガーディアン)が、すべての色を黒にすることに加担するなんて!」
「ぱれっと! さっきから人聞きの悪い言い方しないでもらおうかしら。宇宙のすべてが闇に溶けて消えるように、全ての色が黒に帰る時なのよ!」
自分の言葉に酔っているのか、成すべき大事業に興奮しているのかわからないが、恍惚とした表情でダークネスグリーンはそう言い放った。
「世界が、全部まっくろになっちゃうのは、ちえりイヤだ!」
そう、突然、英(はなぶさ)ちえりが叫んだ。いや、正確にはさくら色のパステルガァルが、叫んだ。
毅然とした態度で、真っ直ぐな瞳で、ダークネスグリーンに。
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