01-06 事故的な叫び

彼は驚いていた。

 主である暗黒王(ダークネスキング)からの命令は、使者ぱれっとの動きを封じ、捕獲。そして「ダークネスキャッスル」こと彼らのアジトに連行することだ。

 ぱれっとは、小さいのでちょこまか動きまわるが、戦闘能力が皆無に等しい。だから捕獲するのは時間の問題、とるに足らない標的のはずだった。

 ところが、捕獲寸前に一人の少女が邪魔に入った。

 ぱれっとはその少女に色彩元珠(パステルオーブ)を渡すや否や、目映い光とともに彼女は変身し、彼自身、その光と風のようなものに、吹き飛ばされてしまった。

「クロクロ…」

 そう、彼――クロコは、末端の兵隊ではあるが、仮にも暗黒王(ダークネスキング)の分身であると自負している。このまま引き下がるわけにも行かない。よし、ここは、目の前の少女は無視して、ぱれっとを捕獲しよう。なにしろ少女の出現は想定外なのだ。

 そう、思ったのかも知れない。クロコは気をとりなおすと、ぱれっとに照準を定めた。

「ひやっ! こっちに来ないでくだたい!」

 分度器を逆さまにしたような半月状の目は、ぱれっとをガン見して今にも飛び掛かろうとしている。

 そんなクロコを見て、ちえりは何かがピーンと来た。

「わかた! この黒い人は悪い人! ブタさんをつかまえよーとしてる」

「ちょっ! ブタじゃありまてん!」

 彼は泣いた。断じて豚ではない。どっちかって言うとサン*オのシ*モンぽくないれすか?

「ちえり、変身したから、つよい?」

「そうれす! せっかく変身したのれすから、こう変身少女らしく、バシッと決めゼリフでクロコをビビらして下たい!」

 ちえりは、うんと大きな相槌(あいづち)を打つと、キッとクロコを(にら)む。

 変身少女、覚醒(かくせい)

「こんにゃろー! ばーか! ぶつよ!」

 …覚醒(かくせい)してない。

 歴代の変身(もしくは魔法)少女の決め台詞(ぜりふ)の中で、一番残念(チープ)な、ショッキングと言うか、ある意味、事故的な叫びが辺りに木霊(こだま)した。何かに変わってお仕置きをするとか、何とかカラーは何とかのシルシとか、いわゆるそんな気の利いた台詞(せりふ)は自動的に生成はされないのだ。

 ところが、クロコはクロコで、ちえりの勢いに押され、ひるんでしまう。ちえりは勢いのまま、ステッキをクロコに向かって振るう!

「こんにゃろ!」

 がん!

「ッグロ~っ」

 ここに来てまさかのステッキによる物理攻撃が、クロコの頭部を強打した。ビームとか、光とか、気のきいた演出はなく、肉弾的な直接攻撃。

 この状況はなんなのだ。そのあまりの大胆さに、クロコは驚愕(きょうがく)し、ついには逃げ出してしまったのであった。