彼は驚いていた。
主である暗黒王(ダークネスキング)からの命令は、使者ぱれっとの動きを封じ、捕獲。そして「ダークネスキャッスル」こと彼らのアジトに連行することだ。
ぱれっとは、小さいのでちょこまか動きまわるが、戦闘能力が皆無に等しい。だから捕獲するのは時間の問題、とるに足らない標的のはずだった。
ところが、捕獲寸前に一人の少女が邪魔に入った。
ぱれっとはその少女に色彩元珠(パステルオーブ)を渡すや否や、目映い光とともに彼女は変身し、彼自身、その光と風のようなものに、吹き飛ばされてしまった。
「クロクロ…」
そう、彼――クロコは、末端の兵隊ではあるが、仮にも暗黒王(ダークネスキング)の分身であると自負している。このまま引き下がるわけにも行かない。よし、ここは、目の前の少女は無視して、ぱれっとを捕獲しよう。なにしろ少女の出現は想定外なのだ。
そう、思ったのかも知れない。クロコは気をとりなおすと、ぱれっとに照準を定めた。
「ひやっ! こっちに来ないでくだたい!」
分度器を逆さまにしたような半月状の目は、ぱれっとをガン見して今にも飛び掛かろうとしている。
そんなクロコを見て、ちえりは何かがピーンと来た。
「わかた! この黒い人は悪い人! ブタさんをつかまえよーとしてる」
「ちょっ! ブタじゃありまてん!」
彼は泣いた。断じて豚ではない。どっちかって言うとサン*オのシ*モンぽくないれすか?
「ちえり、変身したから、つよい?」
「そうれす! せっかく変身したのれすから、こう変身少女らしく、バシッと決めゼリフでクロコをビビらして下たい!」
ちえりは、うんと大きな相槌(あいづち)を打つと、キッとクロコを睨(にら)む。
変身少女、覚醒(かくせい)
「こんにゃろー! ばーか! ぶつよ!」
…覚醒(かくせい)してない。
歴代の変身(もしくは魔法)少女の決め台詞(ぜりふ)の中で、一番残念(チープ)な、ショッキングと言うか、ある意味、事故的な叫びが辺りに木霊(こだま)した。何かに変わってお仕置きをするとか、何とかカラーは何とかのシルシとか、いわゆるそんな気の利いた台詞(せりふ)は自動的に生成はされないのだ。
ところが、クロコはクロコで、ちえりの勢いに押され、ひるんでしまう。ちえりは勢いのまま、ステッキをクロコに向かって振るう!
「こんにゃろ!」
がん!
「ッグロ~っ」
ここに来てまさかのステッキによる物理攻撃が、クロコの頭部を強打した。ビームとか、光とか、気のきいた演出はなく、肉弾的な直接攻撃。
この状況はなんなのだ。そのあまりの大胆さに、クロコは驚愕(きょうがく)し、ついには逃げ出してしまったのであった。
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